定義ある土佐和紙と、自ら定義した和紙を製造する「浜田和紙」は、天保時代から高知県神谷村に工房を構え、わずか0.03㎜という、世界で一番薄い和紙である土佐典具帖紙の技を持つ和紙製作所です。現在は、77年生まれの洋直と79年生まれの治が継承し、その知識と技術を軸に、紙造りは元より、和紙にまつわるデザインや新素材の開発、近年では和紙で建築の空間設計を手がけるなど、幅広い分野で根を張り活躍しております。
浜田兄弟の作品の色彩とテクスチャのインスピレーションの根源は、生まれ育った環境にあり、それは、自然風景のみでなく、国内外の人為的なカルチャー要素が強く反映されております。今回の展示では、和紙の主原料である楮(植物)を調理し、色と光を与えるという製法を熟知した、浜田和紙にしかできない表現で制作された作品を数点展示いたします。
今回の展示のテーマである「ゾクゾクする和紙」とは、静寂、和み、落ち着きといった柔らかい一般的なイメージの解放を意図しています。展示什器は、楮繊維の持つ透過光を効果的に感じていただくために、光の差し込みを考えた設計什器をuiwと共同で制作しております。また、素材は鉄骨スチールのみで構成しており、本来組み合わせるシーンのない鉄と和紙の、揺るぎない調和を見ることができます。作品は、繊維の性質のみを使い、造形には欠かせない凝固溶剤などを一切使用せず、水だけで化学的に立体製作したものや、染色を一色一色重ねて表情を出すレイヤーカラーといった、感性のみでなく類稀な知識とテクニカルな要素を兼ね揃えた表現もあり、巷で流れる伝統という単語のイメージを覆す、未知の和紙の世界がご覧になれます。
浜田和紙は、和紙の強さとは、頑丈という意味合いだけでなく、千年劣化せずにしなやかさなを保つという、柔軟性や順応性こそ本来の強さであると考え活動をしています。その証として、国外ではシスティーナ礼拝堂の天井画、ミケランジェロの「最後の審判」、ボストン美術館所蔵の浮世絵、ルーブル美術館の所蔵品修復、国内では二条城や銀閣寺といった文化遺産の復元に使用されております。イメージやブランドだけでない、精巧さ緻密な基準を厳格に求められる国内外の文化財機関のオファーが続いているという事実は、和紙そのもののスペックの高さを表しています。その他、キャロル・ベンザケン、書家紫舟といった現代アーティストからフルオーダーキャンパスとしての依頼も受けています。
浜田兄弟和紙製作所
77年生まれの洋直と79年生まれの治が、天保時代から続く浜田和紙を継承した和紙製作会社。土佐和紙の人間国宝である祖父、故濵田幸雄に兄弟で15年間師事し2012年に製作所を設立。彼らは自らのアイデンティティを反映して和紙を製作しており近年は様々な業界から依頼を受けている。2015 LEXUS NEW TAKUMI project に高知代表として推薦され、全国から5名の注目の匠の1人にグラナエル・ニコラ氏より選出。メディア、雑誌などではジャンルを超え、NumeroやNEW order magazineといったファッション誌にも掲載されている。2018年にオープンした高知蔦屋書店の店内アートを担当し、2019年4月にオープンした四国銀行新店舗のメインビジュアル「硝子と楮」が新しい。最近の出演番組では、NHK WORLDデザイントークプラス2015、NHK WORLDダイレクトトーク2019、NHK Eテレ「みず、つち、いろ、土佐典具帖紙」2019などがある。
TOSATENGUJOUSHI(土佐典具帖紙)
土佐典具帖紙とは、手漉き和紙の流し漉きを極めた技で造る世界一薄い和紙(厚さ0.03mm・国の重要無形文化財)、明治/大正時代に、欧米諸国のタイプライター紙として輸出発展し、当時高知県のみで日本の海外貿易輸出高12%をしめるほど、貿易産業に大きく貢献した。しかし、昭和には機会紙が主流となり需要は激減、その生命は風前の灯となる。厳しい状況の中、伝承され、昭和50年に「ちぎり絵」作家の亀井健三氏との出会いにより、アート紙としてかたちを変えて開花した。