松下沙花は、東京を拠点に、モノプリントドローイングとペインティングを中心とした作品を制作しています。モノプリントとは、版画技法の一つで、ボードに油性インクをひろげ、その上に直接紙を置き、上から圧力をかけることにより、インクが紙へと転写されます。版がない為、1枚1枚が違う刷りになります。長年モノプリント作品のみを制作していた松下は、次第にその色彩と表現の限界を感じ、2017年頃から、周囲の強い勧めからアクリルペンティングを始めました。以降、繊細でありながら、鮮明な線で描かれる単色のモノプリントと、カラフルなペンティングという、異なる二種類の作品を作り続けていました。
今回の作品群は、ペインティングがよりモノプリントドローイングのようなシンプルな線になり、二つの関係性がより明確に見えるようになっています。アイデアの原点であるモノプリントに描かれた情景や線を、ペインティングで表現するという作家試みがうかがえると同時に、ペインティングというツールに対する松下の信頼と自信の変化も感じます。
今回の展示では、2019年以降に制作された新作を発表します。2017年から題材としている海の作品も引き続き展示予定です。海は、様々な都市で育ち、自身には故郷がないと感じている松下の「故郷に思いを馳せるということへの憧れ」と「故郷というものを捉えられない現実」の象徴として描かれてきました。全ての海の景色は、松下自身の記憶や写真を元に描かれたものではなく、両親の故郷であり松下の出生地である長崎の海や、他人の海の思い出や写真をベースに作り上げた実在しない風景です。また、暗い色で描かれる海は、神秘的な夜を連想させると同時に「見えない、知らない、わからない」という、曖昧な感情を示します。
松下の、進化したアクリルペインティングと、原点である繊細なモノプリントドローイングを、
この機会にぜひご高覧くださいますようお願い申し上げます。
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松下沙花(まつしたさか)
長崎生まれ。ニューヨーク、トロント、横浜育ち。Wimbledon School of Art (現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)の舞台衣装科卒。その後大学院で舞台美術を学ぶ。卒業後はロンドンにてフリーのシアターデザイナーとして映画、舞台、インスタレーションプロジェクトのデザインを手がけた。現在は、舞台美術のプロセスを活かした、ナラティブなモノプリント版画やアクリルペインティング作品を制作し、国内外で定期的に個展を開催している。
http://www.sakamatsushita.com
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